学会について

小笠原直毅

第2-3期会長挨拶

小笠原直毅
奈良先端科学技術大学院大学

日本ゲノム微生物学会の第2期(2009-2010)の評議員会において、会長に選出された小笠原です。磯野評議員会議長と協力しながら、吉川前会長、別府会員、石浜会員を始めとする新評議員、そして幹事の方々と、今後2年間の学会の運営にあたらせていただきます。ご協力をよろしくお願いします。

日本ゲノム微生物学会は2年前にスタートしたのですが、その背景には、微生物ゲノム配列の解読と、それを用いた様々なシステマチックな研究手法の導入により、微生物研究における戦略と課題が大きく変わりつつあり、また、研究目的や菌種ごとに個別に進められてきた微生物研究が、ゲノム配列情報を共通の基盤として、お互いに情報を交換しながら統合的に研究できるようになったという現状認識がありました。そして、そうした微生物研究を我が国で進めるために、新しい研究者コミュニティーを、目に見える形で作ろうということで学会が発足しました。

研究技術についていえば、いわゆる新型シークエンサーが、生物研究に更なる展開をもたらすものとして注目されています。微生物についても、いままでタイリングアレイを作らなければできなかったChIP-chip解析が、新型シークエンサーを用いたChIP-seq解析により、ゲノム配列さえあれば可能になりました。また、ゲノム配列の変異を洗い出すことにより、自然に生じた抑制変異も迅速に同定できるようになりました。さらに、自然界における微生物の多様性の理解も大きく進むことが期待されます。また、FEMS Micribiol Revの今年のVol 1は、微生物のシステム生物学の特集になっていますが、いままでの知識とゲノム配列情報さらにトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム等の情報を統合することにより、微生物の基礎・応用研究の革新が期待されています。

現在、分子レベルでの機構の解明があまり進んでいない大きな課題として、細胞構造の構築メカニズムの解明があります。例えば、細胞分裂の分子機構は、関与する遺伝子・蛋白質の同定は進んでいますが、それらがどのように相互作用して、どのような分子装置を形成するかは不明です。また、GFP融合蛋白質等を利用した細胞生物学的研究から、細菌といえども、細胞質や核様体はランダムな蛋白質の集合体ではなく、一定の構造を形成していることを示す結果が得られています。こうした、細胞構造構築の分子機構の解明は、まずは、微生物で挑戦すべき課題であると思います。

このように微生物研究が挑戦すべき多くの重要な課題が我々の前に広がっています。もちろん、微生物関連の研究をカバーする多くの学会でも、これらの課題は認識されていると思います。ゲノム微生物学会には、こうした最先端の微生物研究の動向を把握して共有するとともに、日本から質の高い微生物研究の成果を発信するための、牽引者としての役割を果たすことが課せられていると思います。今後、一層の学会活動の活性化に取り組み、広く内外に見える形で新しい研究者コミュニティーを作っていきたいと考えています。

2009年1月12日


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